ある日、実家にミシンの営業の人が来た。
母親に「ミシンは欲しいか」と、問われ、すかさず「欲しい」と答えたように記憶している。JUKIのコンパクトな家庭用ミシンだ。
そのミシンを持って、進学のため実家を出て、大阪へやってきた。
ちょうど二十歳の誕生日の数か月前のことだ。
以来、何着の洋服を縫ったことだろう。服だけじゃない、テーブルクロスにカーテン、袋物、ルームシューズ、ハンカチにナフキンにランチョンマット。
自分で作れそうなものはいろいろとミシンのお世話になってきた。
ミシン油を差し間違えて動かなくなり、修理に出したこともあった。
数回の引っ越のときももちろん一緒に移動し、大事に使ってきた。
今年になって新しく職業用ミシンを購入。
さすがに、今までの家庭用のミシンと違って馬力もあり、縫い目もきれい。
家庭用ミシンの出番は確実に減った。でも、手放すつもりもなかった。だって職業用ミシンには無い機能が家庭用ミシンにはあるもの。
で、先日家庭用のミシンを少しひさしぶり(といっても数か月ぶり)に出してきて、
ギザギザミシンをかけようと思ったのだが、うんとも、すんとも言わない。
全く動かない。まったく、ほんとうに、うごかない。
あぁ、とうとう、来るべきときが来たのか。
30年近く使ったミシン。寿命なのかな。
職業用ミシンが来たことで力尽きたのかな。役目が終わったと察したのかな。
記念撮影をして、手放そう、と思って写真を撮ったものの。
残念な気持ちが強く、もう少しだけ机の上にだして、眺めて、
それから、それから、どうしようか。