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バティックとその周辺
石橋から十三まで
「次は急行ですか? 普通ですか?」
電車を待っている私にたずねてきたのは、黒っぽい装いをした女性だった。
「急行ですよ」と、私。
「今日はまた暑いですね、あ、若い人はそうでもないのかしら」とその女性。
そうして、天気の話をして、
「スカーフ素敵ですね」と、私。
「父のなの」と、彼女。

「何かなさってるの?」
「染とか織りとか好きです」
「そうじゃないかと思ったわ」

そうして、電車が来てもたったままのおしゃべりは続いた。
簡単な家族構成、3人のお子さんがいる。
私も3人兄弟。自分が一番放蕩娘だと告白する。

彼女は今やっと自分の時間を持てて、人生を謳歌しているようだった。
若い頃自分のすきなことをしてこなかったことを残念に思っている。
私が楽しみを見つけ、好きなことをやれているのはとてもいいことだ、と言ってくれた。

(あ、間違ってないな、私。と彼女に言われてそう思った)

母よりも年上だろうか。ふわりとしたおかっぱ。ボルドー色の口紅。大きな石が付いたリング。ピンクっぽいマネキュア。黒のインナーに黒のジャケット、黒いスカート。黒のかばん。父親が使っていたという細かい織り柄の入ったシルクのスカーフはリバーシブだけれど、今日はベージュの方を表にした、のだとか。

一目でおしゃれな人。

私ときたら、これから春までのシーズン週に1回は着るグレーのタートルに、いつものジーンズ。いつもと違うのは赤いシンプルなサンゴのネックレス(しかも中国の旅の途中に自分でつくったやつだ)
まぁ至って、普通な格好。

だからどうして彼女が私のことを「染め織りがすき」だと思ったのか。
今日の私はそういうオーラを発していたのか?(ちなみにアンデスの織りを見に美術館へ向かう途中ではあった)

ふっと気がついたらもう十三だった。
「ここで乗換えなので。よい一日を」と私。
彼女顔を輝かせて、「*****」。さようなら、とかいう意味のイタリア語かスペイン語だ。
「ちょっと勉強してるの」とその後にうれしそうに小声で耳打ちした。

なかなか素敵な女性だった。

つまり、今日は出だしからしていい一日だったというわけだ。
by tomo_kodama | 2009-11-07 21:52 | その他
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